雅楽は古代以来もっとも長い歴史をもつ東アジアの音楽です。
中国で成立し,朝鮮,日本,ベトナムなどの王朝国家に伝えられてきました。ベトナムの雅楽は「ニャニャック」として現在も残っています。
日本の雅楽は中国と朝鮮との縁が深いので、中国、朝鮮の雅楽の歴史と日本の雅楽の歴史をなぞってみます。
・春秋時代(前8~前5世紀)に儒教の礼楽として用いられ成立し発展した「雅声」を孔子が尊重したことに始まります。
・戦国時代(前5~前3世紀)の末には古代雅楽器もそろっていました。
・漢の時代(前206-後220)に、国は礼楽思想のもとに国の統治のひとつとして雅楽の制度確立をはかりました。
・周の時代にはそれぞれ独立していた器楽,歌,舞は,ともに奏するようになりました。
・三国時代(3世紀中ごろ)から南北朝(5~6世紀)にかけては,西域楽なども入ってきて、俗楽が盛んとなり、雅楽は衰退しました。
・南北を統一した隋の時代(581-619)に雅楽の復興をはかりましたが,西域楽が宮廷で重視されたために,古い時代の雅楽の発展はありませんでした。
・唐の時代(618-907)、玄宗皇帝の頃、「開元雅楽」と称する大規模な雅楽を制定しました。
・宋の時代(北宋960-1126,南宋1127-1279)には雅楽の復興が盛んに行われました。
・元の時代(1271-1368)はあまり雅楽は発展しませんでした。民族が違ったからかもしれません。
・明の時代(1368-1644)にまた漢民族の王朝となったので、漢・唐・宋の楽制を規範として新しい雅楽を制定し,多数の曲も作られました。
・明の時代の雅楽は朝鮮に伝えられ,現在に伝わる朝鮮の雅楽に大きな影響を及ぼしました。
・清の時代(1616-1911)はこれまでの雅楽器のほかに,征服地であったアラブ,ネパール,ビルマなどの楽器も用いられましたが、清王朝滅亡とともに中国の宮廷雅楽は滅びてしまいました。
朝鮮の雅楽は、李王朝に伝わった宮廷音楽のことを言いますが、本来は中国から伝わった雅楽を受け継いだ祭礼楽のことです。現在,韓国国立国楽院において継承されています。
・新羅時代(668-935)から唐楽が輸入されていましたが,中国の雅楽が大規模に伝わったのは,高麗時代(936-1392)です。
・高麗時代に雅楽と宮中音楽の整備をし、雅楽署が設置されました。
・李王朝(1392-1910)に入り、宮中の祭祀楽と宴礼楽を再整備したのですが、李王家の衰退にともない雅楽も衰退しました。
・1948年大韓民国成立後、雅楽を国楽として復興保存に努め,現在,国立国楽院などによって盛んな演奏活動や研究も行われています。
日本の雅楽は5世紀から8世紀にかけて日本に伝来した色々な大陸の音楽の、唐楽(舞楽と管絃)・高麗楽(舞楽のみ)をさします。
・630年から遣唐使の派遣によって唐楽が伝えられ、701年(大宝1)には雅楽寮が置かれ、宮廷音楽として扱われるようになりました。
・仁明天皇(833~850在位)のころに「平安の楽制改革」と言われる改革が行われ、唐楽・林邑楽(りんゆうがく)など中国系の音楽を主体とする唐楽と、朝鮮系の音楽を主体とする高麗楽に整理され、その2分野が今日まで伝わっています。現在の形はその頃から変わっていませんので、1200年近く変わっていないと言えます。
・日本では10、11世紀には和漢の詩歌に管絃の伴奏をつけた「催馬楽」「朗詠」という声楽分野も誕生し、盛んになりました。
・応仁の乱(1467~1477)で都が破壊され、雅楽は七夕の行事だけとなってしまいましたが、16世紀後期に、三方楽所の楽人の力を借り、雅楽復興に努めました。
・江戸時代には三代将軍徳川家光が三方の楽人の一部を江戸城内の紅葉山に集め、祭祀儀礼のために演奏させました。これを「紅葉山楽人」といいます。
・明治時代になると、雅楽はいったん皇室に返上することになりました。
・1870年(明治3)太政官雅楽局が開設されると、三方楽所と紅葉山の楽人が召集され、『明治選定譜』が制定されました。これが現在、宮内庁式部職に属する楽部に伝わっています。
・明治以後、雅楽の大衆化が進み、宮内庁雅楽が宮中儀礼に正式の楽として演奏される一方、四天王寺・興福寺などの社寺では独自の伝統が保たれています。
・近年では民間でも愛好者が増え、活動する雅楽団体は全国で100を超えます。大学の雅楽サークルなども入れるともっと多くの活動者がいます。作曲家による新曲なども作られ、新たな活動も盛んです。
古い時代の中国の雅楽があまり変化されず残っているため、中国の研究者の方が日本の雅楽を見聞きして研究をしているという話も聞きます。朝鮮の雅楽も日本に伝わったものよりも現在は新しいものなので、日本が中国や韓国よりも古い形を現在も伝えているということが不思議です。
・邦楽百科辞典(音楽之友社)
・世界大百科事典(平凡社)
・日本大百科全書(小学館)
・国史大辞典(吉川弘文館)
「雅楽とは」のページもぜひご覧ください。