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【gagaku譚11:Taro版「太食調音取」―静謐な死と、生―】

2024.11.02
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2024年11月1日、石田多朗さんの新曲、現代雅楽の真骨頂ともいうべき『陵王乱序 | Ranjo』」がリリースされた(※詳しくは多朗さんの配信や、「gagaku譚10」をご覧ください)。

 

皆様、お聴きいただけただろうか。

ご体感されただろうか。

 

「雅楽楽器と、西洋楽器(ストリングス)」「ストリングスと430Hz」のレイヤー的融合を。

そして、

「雅楽の新時代の始まり」を。

 

 

さて、今回は急遽予定を変更し、『陵王乱序 | Ranjo』と共に配信されている『太食調音取|Netori』について、紹介させていただきたい。

 

 

 

◆原曲「太食調音取」とは

 

雅楽の中でも管弦で奏される「唐楽」(奈良時代から平安初期にかけて中国から伝わってきた音楽)の調子は6種類あり、「太食調音取」の「太食調」もその一つです。

平調(ひょうじょう)という調子と同じく、[西洋音楽のEの近似音高]を主音とする調子です。

 

六調子それぞれに固有の音取がありますが、どの調子の音取も一定の様式で作られ、楽器が1つずつ演奏に加わっていくとともに、その登場する順序も共通しています。

まず笙が吹き始め、篳篥が加わって、龍笛が吹き出し、鞨鼓(かっこ)が加わってリズムを打ちます。そして、琵琶、箏が加わって曲は終わります。

最後の箏の音はこれから演奏される調子の主音を響かせるそうです。

 

 

「音取」は、各楽器のそれぞれの奏者が誰か、どのような人が集まって奏するかで絶妙に異なる曲になるといいます。

互いの音、息づかい、響きを聴き取りあって生まれる曲なのです。

 

 

 

◆Taro版『太食調音取|Netori』とは。

 

 

「原曲をいじっていない」

と、多朗さんは言います。

 

原曲そのままに、笙が鳴り出し、その音が終わりそうなところで篳篥が始まり、同じように龍笛、鞨鼓などが順々に入っていくという流れるような曲に、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロを入れたのだ。

 

すると、雅楽、日本の悠久の響きに不思議と西洋の石造りの教会っぽい世界が湧出した。

 

多朗さん(以下、多):雅楽の世界と西洋の世界それぞれが並行し音を鳴らしあっているのだけれど、ときどき龍笛のフレーズをたまにヴァイオリンが真似をする。つまり、二つの世界は並行世界なのだけれど薄っすらリンクしているんです。

 

私(青栁):互いの世界が並行し、重なり合って進んでいく。この世を表わしているようですね。

 

多:そう。世界は同時進行を表わしている。クラシックと雅楽。お互い別に生きるのではなく、たまにクロス(戯れる)する。

平安時代の日本で誰かが龍笛を吹いている時に、ヨーロッパのどこかで誰かがフルートで同じメロディーを偶然、吹いている。そんな感覚。

 

私:遠い世界のどこかで誰かの息遣いを思う、感じる。そういう感覚を持ってみんなが生きていたら、戦争は起きないかもしれないですね。

 

多:たしかに。

 

私:なんて素敵なんだろう。どんなテーマが込められているのですか。

 

多:平行して進んでいく世界があって、その根本は死の世界。悲しい死ではない、穏やかな、静謐は死の世界。

 

私:死があるから生がある。

 

多:その両極端かもしれないです。『陵王乱序 | Ranjo』が動の生、「太食調音取」は静の生といった感じ。

でも、始めからそういう世界にしようと思ってはいなくて、「太食調音取」にストリングスを載せていったら自ずとそうなっていった感覚です。本来は音合わせの曲なのに、ストリングスを入れたら「死の香り」が漂った。

そもそも、クラシックと雅楽を合わせることは大変難しいこと。根本が違う。技術、セオリー的にもだけれど、テーマも難しい。どっちかによった瞬間にどっちかがメインになってしまう。両方、共に関わってくる事象って結構、限られている。死とか生とか、「進む」とか、超現象的なことしかテーマになり得ないんですよね。

 

私:国境、人種、時空、時代さえも越える曲ですね。

 

多:今後、「今回はクラシックに寄せます」という曲を作るかもしれないけれど、「両方に平等に」ってなると不変で普遍的なテーマになる。

 

私:先程、「雅楽にストリングスを載せたら『死の香り』が漂った」と言っていましたが、雅楽は「生」のエネルギーが強いということなのでしょうか。

 

多:雅楽は現象っぽくて、ストリングスが感情、人間界代表という感じがします。

 

私:自然にも死はありますもんね。

 

多:森の中で僕らが死んでも、自然にとってはどうでもいいこと。「あ、死んでる」くらい。森は毎日、何かしらの死をみている。それを雅楽の死だとすると、ストリングス、クラシックはドラマティックな死。 どっちも好きですけど。

 

私:わたしもどちらも好きです。

 

多:ねっ!

 

 

 

 

世界のどこかで生と死が巡り、時は平等に過ぎるけれど互いの時が並行して進んでいく。そして、時に気付かず、重なり合う。リンクする。

静かな死、新たな生に向かって。

 

切ない響きが私という存在を、陽の光が平等に注ぐように、分け隔てなく、慈悲深く包み込む。

 

皆さんはどのように感じましたか。

 

 

 

 

◆新曲『陵王乱序 | Ranjo』『太食調音取|Netori』各種配信サービス

https://artists.landr.com/055855754134

 

◆公演、特別企画展も開催

2025年

1月12日(日)『陵王乱序 | RANJO』 栃木公演

https://taroishida20250112.peatix.com/view

 

3月9日(日)『陵王乱序 | RANJO』 東京公演

https://taroishida3.peatix.com/view

 

石田多朗(作曲・ピアノ)

中村仁美(舞・篳篥)

中村かほる(楽琵琶)

中村華子(笙)

伊﨑善之(龍笛)

田中李々(ヴァイオリン)

七澤達哉(ヴィオラ)

成田七海(チェロ)

 

こちらもご参照ください。

石田多朗『陵王乱序 | Ranjo コンサート』栃木2025年1月/東京2025年3月

 

 

 

Written by Atsuko Aoyagi / ao.Inc.

 

 

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