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【gagaku譚の余談譚⑤:雅楽の演奏空間】

2024.12.08
TOPBLOG【gagaku譚の余談譚⑤:雅楽の演奏空間】


 
 

 

今回は、多朗さんら5人の表現者が参加しているアート企画展「笙|SHO」について、お話させていただきました。

 

 

 

「音楽が仏と人を協和させる」『楽家録』

 

自然、神への敬仰、讃仰の思い、祈り、仏への讃歎供養。

超越的な存在への畏敬や感動、感謝の流露として生まれた「雅楽」。

 

古代、中世の時代。

その思いを音にするためには、

奏者、聴く者の感覚や、超越的な存在への畏敬の思い、精神性を高めるためには、

自然との協奏、共鳴が必要不可欠とされていた。

 

屋外の風の音、水の音、葉のささめき、時折さえずる鳥の声、奏者の着物の衣擦れの音などの環境音まで交響の要素として捉えられていたというのだ。

 

 

そして、古代、中世の雅楽空間はきちんとその要素を兼ねており、環境音との協奏を成立させ、先に述べた雅楽の心性の流露を実現させていたそうだ。

その理想的演奏環境、空間が、「庭屋一如」※1。

しかも、視覚的庭屋一如ではなく、

「聴覚的・超感覚的庭屋一如である」と、東儀道子氏※は著書で述べている。

 

 

※1「庭屋一如」(ていおくいちにょ):「庭と建物は一つの如し」。茶室・数寄屋建築研究家・中村昌生氏(1927~2018)が提唱した造語。庭と建物が融合し、自然と調和する境地で、庭と建物の調和がとれた生活空間、引いては環境と共生する建物を指す。

 

※2「東儀道子氏」:旧姓・月本。1930年札幌市生まれ。1953年お茶の水女子大学文教育学部哲学科卒業。比較哲学・宗教哲学専攻。元早稲田大学社会科学研究所特別研究員。比較思想学会会員。元宮内庁楽部首席楽長、東儀俊美の妻。

 

 

雅楽の歴史

 

 

 

 

◆3タイプの雅楽空間

 

雅楽公演 | どんぶらこ@那須みふじ幼稚園

 

 

東儀道子氏は、その雅楽演奏の場を三種に分類している。

 

一、屋外で奏楽、奏舞で行う「古来の祭祀の場」

二、同じく屋外で奏楽、奏舞で行う「仏教大法会の場」

三、平安時代に代表される、宮中や上皇の御所などで祝宴や饗宴の舞楽が奏される場。御殿の主殿である「寝殿の庭上」または「苑池(えんち)」 ※鑑賞者は殿上

 

 

いずれも「自然、動物、虫たちが奏でる音といかに共鳴、協奏するか」がポイントではあるが、三は、建物の内と、外とのつながり方も重要であった。寝殿のどの部屋、どの位置でどの楽器を奏するかが、それぞれの場所の音響効果、環境音とのつながり方を勘案して、配置されていた。

例えば、弦楽器の筝、和琴、琵琶は繊細で音量が小さいから室内。篳篥は音量とそのパワフルな音質から廂(ひさし)の下で奏されていたという。

 

しかし、現代においては、外の環境とつながった空間で、古代、平安時代の人々が追求していた環境音との協奏を聴く機会はなかなか巡り合えないのかもしれない。

 

 

 

◆アート企画展「笙|SHO」

 

 

と、感じてから間もなく、栃木県那須塩原市の図書館「みるる」ギャラリーで石田多朗氏と映像、絵・動画、文字の創作者たちによる企画展「笙|SHO」が始まった。

 

作曲家/プロデューサー 石田多朗さん

笙奏者 中村華子さん

イラストレーター/アニメーション作家 ささきえりさん

映像作家/写真家 若尾一輝さん

クリエイティブライター 私、青栁厚子

 

 

5人の作家、表現者がお互いに何を作るのか伝え合わないままに集まり、

5つの惑星が笙を中心としてそれぞれの軌道で動き、

それらがたまにリンクする・・・。笙に関する説明的なことは一切表現せずに、神秘的な音を放つ「笙」という存在を伝える特別な、稀有な企画展だ。

 

 

 

◆音と空間のハーモニー

 

その展示会場は同館の南入り口を入ってすぐにある。

大きな透明の自動ドアからは陽の光が一日中注がれ、

ドアが開くたびに道路、駅前、飲食店などから漏れる様々な音も那須の空気を含んで柔らかく、漂い込んでくる。

館内には、静かな会話、本、新聞などを読む時や館内を歩く時などの図書館を楽しむ人々の微かな動作音。

開放型の展示室からは、多朗さんが制作し、華子さんが奏した笙の曲が優しく、鳴る。

 

全ての音が重なる中心にふと立った時、

フワっと地上から数センチ、思考する私が浮遊するような、音の重なりに溶け込むような感覚を覚えた。

 

また、

館の外から柔らかな街の音を纏い入り口を入ると、

企画展展示室から響く笙の曲が、天上から注ぎ、一気に私の世界をいつくしみ深く包容してくれるような衝撃的な感動に襲われた。

 

ヘッドホンで聴く音楽とは異なる、「雅楽」を体感した。

自然の音に憧れ、自然と共鳴したいという願いから生まれた「雅楽」だからこそ、

環境音と違和感なく、重なり、協奏できるのだと改めて強く感じた。

 

さらに、なんと、約2カ月の会期中(クリスマス時期を除く)は中村かほるさんによる楽琵琶の演奏が、みるる館内全体のBGMとなっている。

 

日常。図書館でのふとした動作、本との出合いに楽琵琶の音が重なると、なぜだか、その瞬間が愛おしく、一層、刹那を大切に感じるから不思議だ。

 

 

 

 

 

◆〝現在〟と雅楽との共鳴

 

何気ない瞬間、時。

その時の思い、感情を抱擁し、時に、彩る雅楽の音。

 

本展は、古代、平安時代の人々が重きを置いた、「自然の音、環境音との協奏、共鳴」の一端を

現代版として、今、体感できる。

 

ささきさんの絵とアニメーション動画、岩尾さんの開かれた扉のような、結界のような煌めくオブジェと笙の音の重なりも見所。体感所!

 

ぜひ、アート展示『笙|SHO』に足をお運びいただきたい。

 

 

 

木の俣渓谷

 

 

◆アート展「笙|SHO」詳細

 

会期:12月6日(金)~1月30日(木) ※毎週月曜休館(祝日の場合翌平日)

時間:平日10:00~21:00 土日祝10:00~18:00

会場:那須塩原市図書館みるる ギャラリー

 

関連イベント

■『笙|SHO』ミニコンサート

石田多朗+中村華子

日時:12月15日(日)13:00~13:30

場所:那須塩原市図書館みるる アクティブラーニングスペース

予約:参加無料・予約不要

 

■『笙|SHO』トーク+ミニコンサート

石田多朗・中村華子・ささきえり・若尾一輝・青柳厚子

日時:12月15日(日)14:00~16:00

場所:那須塩原市図書館みるる サクシード・ツグナラホール

予約:参加無料・要予約(50席限定)

※お申込みは株式会社Drifter  HPの「BLOG」>「2024-2025 石田多朗 コンサート・スケジュール」ページのURLよりお申込みいただけます。

※他の公演のURLとお間違いのないようご注意ください。

 

 

 

 

Written by Atsuko Aoyagi / ao.Inc.

 

 

 

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