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【gagaku譚14:武士と雅楽と、笙】

2024.12.01
TOPBLOG【gagaku譚14:武士と雅楽と、笙】

 

 

 

笙を探る中、笙と武士との興味深い話、笙にまつわる逸話に遭遇した。

 

 

◆武家と雅楽、そして笙

 

雅楽は平安時代に完成形を迎え、天皇をはじめ貴族たちによって愛好され、宮廷社会に欠かせない存在となった。

そして、貴族勢力が徐々に衰え、武士が台頭する平安時代末期から鎌倉時代。

この頃も公家社会では雅楽が全盛を誇っていたが、武家もまた雅楽を学び、庇護をはじめた。

 

公家文化に傾倒した平家の人々は雅楽をたしなみ、平清盛は、嚴島神社の法会などに都の舞楽をもち込み、その伝統は今なお嚴島神社に継承。平経正(清盛の甥)など管絃の名手といわれる人物も輩出した。

 

※平経正は、17歳のときには仁和寺に伝わる琵琶の名器「青山(せいざん)」を預かるほどの名手。経正は片時も青山を離すことなく、宇佐神宮で『青海波(せいがいは)』、竹生島で秘曲を弾いたという。

 

 

源氏もまた然り。鎌倉幕府初代征夷大将軍(鎌倉殿)・源頼朝は鶴岡八幡宮に楽所を設け、京の楽人を招いて都の雅楽を鎌倉に移した。鎌倉の雅楽はその後、一部の地域に影響を与えた可能性があるという。

 

時は移り、室町時代。源頼朝と同じ祖を持つ、室町幕府を開いた初代征夷大将軍足利尊氏もまた、雅楽の笙を豊原龍秋(とよはらの-たつあき、鎌倉-南北朝時代の雅楽家。京都方の笙の名手として知られ、後光厳天皇の笙の師範役も務めた)に師事した。三代将軍の足利義満も尊氏に倣って笙を学んだとも言われている。

 

 

 

 

◆源義光と笙

 

平安、鎌倉、室町。これらの時代の武家と雅楽を語る上で、見逃せない逸話がある。

源頼朝、義経からみて高祖父の弟にあたる源義光と笙にまつわる逸話だ。

 

義光の父・源頼義は平安時代中期の武士で、「河内源氏」(現在の大阪府に根拠地を置く源氏の一族。武士で源氏を名乗る者はこの一族を指す)2代目棟梁。義光は三兄弟の三男に生まれ、滋賀県三井寺の新羅善神堂で元服したことから新羅三郎義光(しんらさぶろうよしみつ)とも呼ばれた。

兄の源義家と並び称される勇将であったが、笙の楽祖と称される平安時代の藤原基経からその技を伝承した豊原家に師事し、笙の名手でもあった。

 

後三年の役(1083年)。戦いの始めの頃は反乱軍が強く、苦戦していた兄の義家を助けるために、義光は朝廷の許しを得ぬまま数十騎の兵をつれて奥州に向かう。近江の国(滋賀県)にさしかかった時、後ろから、馬を飛ばして追いかけてきた若者がいる。見ると宮中の笙の楽家の若当主、豊原時秋である。「楽人の助太刀は要らぬ」と言っても強情についてくる。

東国の足柄峠に入ったとき、朝廷の認可のない正規軍ではない義光の軍は関所を通れない可能性があった。

関所破りとなれば、京へ戻れないかもしれない―。

 

義光は、時秋がなぜ危険を犯してまでついてきたのかを悟る。

 

時秋を近くに呼び、話す。

『「よく聞かれよ、我は御尊父より笙の秘曲を授り、これを後世に伝うべく託された、然るにこの度戦場に赴く上は生死の程も計り難い、我死なばこの道はすたれ先師の志をも空しうする。只今これより相伝の秘曲を伝授すれば貴殿はこれより京へ引き返しこの道を守られよ。」と輸しこの大石(新羅三郎義光吹笙之石)の上に坐り伶人豊原時秋に笙の奥儀を伝えた。』。(参照:足柄峠・新羅三郎義光吹笙之石・説明版)。

 

伝授された秘曲は「大食調(たいしきじょう)入調」で現在も残っている。

 

 

義家、義光はこの戦いに勝利し、京に凱旋した。義光は左兵衛尉、刑部丞、常陸介、甲斐守、刑部少輔を歴任し、その子孫も歴史に名を残す名将を数多く輩出。戦国時代の武田信玄もその血を引く一人だ。

 

また、豊原家も笙の楽家として千年以上、現在もなお、子孫の方が楽師として笙の演奏、伝承に務めている。

 

 

 

 

◆伝統への思い

 

 

伝統を伝える者の覚悟と、受け継ぐ者の覚悟。

双方あっての今日の伝統文化。世界最古のオーケストラと称される雅楽。

 

私自身演奏ができなくとも、触れ、その感動を伝えることはできる。

皆さんと雅楽という存在を大切に共有し、伝え続けていきたいと改めて強く感じた話だった。

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雅楽を構成する「管絃」「舞楽」「歌謡」にもさらに深く触れたい。

また、戦国時代など各時代、時代の人々と雅楽の関りも探っていきたい。

混沌とした時代。雅楽はどんな存在であったのか。

雅楽の力とは。

 

共に探っていただけますと幸いです。

 

 

 

 

注)新羅三郎義光が笙の秘曲を伝授したとされる逸話は、地域の伝承や碑文に基づくものである。

注)今回ご紹介した雅楽に関する多くの伝承や逸話には、地域や時代背景に根ざしたものが含まれます。

一部のエピソードは、伝承や地域の文化的背景に基づくものとしてお読みください。

 

 

 

 

 

Written by Atsuko Aoyagi / ao.Inc.

 

 

 

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