※栃木公演のこれまでの様子:【gagaku譚16:リポート①】【gagaku譚17:リポート②】
休憩中。会場にいる人それぞれが雅楽とクラシック、多朗さんの音の色、響き、芽生えた感情を反芻しているようだった。
後半の部がゆっくり始まった。
◆「沙陀調音取」「陵王破」
11 沙陀調音取(さだちょうのねとり) - (Hichiriki, Ryuteki, Sho, Gakubiwa)
12 陵王破(りょうおうは) - (Hichiriki, Ryuteki, Sho, Gakubiwa)
後半の部が始まる。
前半の曲によって、観客席は穏やかな熱を帯びていた。
多朗さん(以下、多朗):「伶楽舎」という日本を代表する雅楽団体の方々にご一緒いただいています。これから平安時代から形を変えずに演奏されている古典雅楽2曲を聴いていただきます。
『沙陀調音取』『陵王破(陵王当曲)』。漢字の威力が凄すぎるので、あえて今回の資料に曲目を載せませんでした。
「雅楽のどこがいいのか」
質問されて、ずっとずっと考えていて、最近、これが結論かなと思う答えが―。
雅楽を聴くと、自分がどんどん小さくなっていく。
それが僕はいいと思っています。
例えば、何億光年という果てしない場所にある星が山のように煌めく星空とか圧倒的なものをみた時、悩みがどうでもよくなる時がないですか。僕の個人的な考えですが、雅楽は星や海と同じ。探究すればするほど、いい意味で自分がすごく小さくなっていく。「こんなにすごいものがあるんだな」と。
これからの2曲。僕のお薦めの聴き方は、「このメロディは、何を意味しているのか」とか考えないことです。星空を観た時、この星は一体何を言っていのかとか考えないですよね。自分の内面を観ている。
雅楽を聴く時も身を委ねて、ゆったりと聴いていただければと思います。
静かに、『沙陀調音取』『陵王破』の演奏に入っていく。
まるで自然現象かのように音が鳴る。響く。奏者が木々や葉、花 草木花と化し、音は松風のよう。森閑とした佇まいは、人間に思えなくなってくる。次元を超えた圧倒的なスケール。景色、現象に身を委ねる感覚だ。そして、「ああ、元々私たちはその中にいたのよね」と気付かされた。
◆「死者の書」
13 「死者の書」(All)
「10年前、東京にいる頃、精神疾患で2年ぐらい寝込んでいる時期がありました。僕以上に妻が大変だったと思う」
多朗さんは、語り出した。
東京にいる頃、『骨歌』で楽琵琶奏者中村かほるさんと共演。その2年後に篳篥奏者中村仁美さん、龍笛奏者伊﨑善之さんとの演奏会で書いた曲が『死者の書』だった。
「コンサートが終わって、私も終わった」
生きているのか、死んでいるか。「もうだめだ。音楽も辞めようかな」となった時、那須町芦野のカフェ「喫茶 新川屋」の新川夏澄さんから、町の地域おこし協力隊の話が舞い込んできた。
当時、息子さんは1歳。「これをやれば死なずにすむかもしれない」と那須町に移住した。
豊かな自然、優しい人々に囲まれ、病は徐々に回復。すると、役場の方から駅舎改装の記念の曲の依頼など、音楽に関する仕事が入ってくるようになっていた。
―復活の兆し。「SHOGUN」につながっていく。
多朗:「SHOGUN」のエミー賞歴代最多ノミネート、サウンドトラックのゴールデングローブ賞ノミネートなどで、僕は変わっていなくても、皆さんがすごく褒めてくれる。「ああ、自分がやってきたことは間違っていなかった」と少しタフに、そこそこ自分を許せるようになってきた。過去の楽譜、『死者の書』を見ることができるようになった。
先程の震災の時の曲も同じです。今回、公演をするにあたって振り返ることができ、「蘇らせたい」とアレンジした曲です。
会場の多くの人々が、多朗さんの辛い過去、混沌の時からの復活を受け止めるように、
『死者の書』を聴いた。
ピアノは繰り返す。冷たくなった哀しみを辿るような旋律を。篳篥、龍笛など悠久の歴史の音が重なり合い 導く。いろいろな生と死がある。いずれも力強く、次の段階への巨大なエネルギーであることを。
さらに、ストリングスも揺らぎ、重なる。次元を超えたエネルギーの重なり合いは、生と死がいずれも輪廻の過程であることを描き出す。そして、楽琵琶が次の扉をひらく―。
いつの間にか、聴く人それぞれの『死者の書』にもなっていた。
公演は、ラスト3曲となった。
次回、ご報告させていただきます。
楽しみにお待ちいただき、ぜひ、東京公演(https://drftr.co.jp/20242025concert/)で共に
多朗さんの音楽、「雅楽×ストリングス」をご体感いただけますと幸いです。
【出演者】
石田多朗:ピアノ・シンセサイザー
篳篥:中村仁美
楽琵琶:中村かほる
笙:中村華子
龍笛:伊﨑善之
バイオリン:田中李々
ヴィオラ:七澤達哉
チェロ:成田七海
Written by Atsuko Aoyagi / ao.Inc.
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