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【gagaku譚19:栃木公演 リポート・終】

2025.02.24
TOPBLOG【gagaku譚19:栃木公演 リポート・終】

 

 

※これまでのリポート

【gagaku譚16:栃木公演 リポート①】

【gagaku譚17:栃木公演 リポート②】

【gagaku譚18:栃木公演 リポート③】

 

 

 

◆「双調音取」「双調常世」

 

 

14 双調音取(そうじょうのねとり)- (Hichiriki, Ryuteki, Sho, Gakubiwa)

15 双調常世(そうじょうとこよ)-  (All⦅和琴→篳篥→和琴⦆)

 

 

残すところ3曲。

雅楽楽器、ストリングスメンバーと本公演で演奏する最後の曲は、『双調音取』『双調常世』

伶楽舎の中村ひとみさんはこの日、舞い、篳篥を奏で、最後の曲で和琴※を演奏。さらに、同じく伶楽舎の龍笛奏者伊﨑さんも共に多朗さんも歌声を披露する(斉唱)。

 

 

双調は、洋楽でいう「ソ」の音を中心とする調子だ。

古来、調子が醸し出す雰囲気と季節を結び付けて四季に応じた調子を楽しむ考え方、心得が雅楽にはあり、双調は「春」に当てはめられ、明るい雰囲気の曲が多い。

 

音取は、これから演奏する調子の雰囲気を場に満たすための短い曲で、楽器をチューニングする役割もある。楽器たちが音を発芽する準備を整えるのだ。

 

春の来ない冬はない。

そう、春遠からじ。

 

 

 

雅楽奏者の皆さんが所属、研鑽を積んだ雅楽団体「伶楽舎」は、【雅楽の合奏研究を目的に 1985 年に発足した雅楽演奏グループ。芝祐靖が創立し、2019年まで音楽監督を務めた。現音楽監督・宮田まゆみ。現行の雅楽古典曲以外に、廃絶曲の復曲や正倉院楽器の復元演奏、現代作品の委嘱と演奏に取り組み、国内外で幅広い活動を展開。自主企画として、年2回の定期公演、及び子どものための雅楽公演1回、合計3回の公演を続けている】(伶楽舎ホームページより)。

 

創立者の芝祐靖氏(1935-2019)は、奈良系の伶人の家に生まれ、宮内庁楽師(総理府技官)として主に龍笛で活動。1984年宮内庁を退官。1985年「伶楽舎」を結成した。

「宮内庁退官」という異例の決断には、現代雅楽の曲【作曲家武満徹『秋庭歌一具』のより良い演奏を目指す】という気概があり、活動の目的の一つに据えたことにあるという。

 

 

多朗さん(以下、多朗):伶楽舎の方々は日本でトップクラスの奏者です。伊﨑さんや仁美さんたちにはSHOGUNのサウンドトラックでも演奏していただきました。約10年前の僕が本当に拙い頃から、奏者の皆さんにお付き合いいただいています。芝先生が宮内庁楽部を辞めて、伶楽舎を立ち上げなければ、『死者の書』や僕の雅楽曲を演奏してくれる人がこの世にいない。本当にいろんなご縁でこの音楽を作らせていただいています。

ストリングスの皆さんとも6、7年。演奏技術が僕とでは100倍くらい違うけれど、ご一緒させていただいております。

(奏者の方々の方を向き)皆さんのおかげです。ありがとうございます。

では、このメンバーでは最後。『双調音取』『双調常世』という曲を演奏します。

 

 

 

何だか少し、柔らかい空気になった会場。

笙が鮮やかな音の色を発し、演奏が始まった。篳篥、龍笛の順に音は加わり、楽琵琶、和琴、歌、そして、ストリングス、ピアノ。国を問わない、優しく、嫋やかな音たちが無邪気に戯れ合う。

のびやかに、自由に。

 

 

演奏後、拍手にはさらに体温がのっていた。

 

多朗:ありがとうございました。

 

 

※「和琴」(わごん):別名「やまとごと」。倭琴、日本琴とも書かれる。起源は上代に遡るといわれる日本固有の絃楽器。楽箏と同じく桐製で、長さは約190㎝、幅約18㎝、厚さ約4㎝。

 

 

 

 

◆「豊原駅の歌」

 

豊原駅の歌

 

16 豊原駅の歌 - (Piano + Chorus⦅子ども、大人計60名⦆)

 

 

多朗:最後の曲は、那須町で合唱をされている皆さんにお越しいただきました。僕が地域おこし協力隊として活動していた時、「豊原駅の歌」という曲を作曲しました。

関東最北端の無人駅である豊原駅。その開業130周年に伴うリニューアルを祝した、記念の曲です。作詞は、駅近郊で20年以上酪農を営み、踏切警備員としてボランティアとして活動している磯由紀子さんが担当しました。毎朝、この無人駅で電車に乗る小学生の安全を守っていらっしゃいます。

 

 

磯さん:2019年にJR東日本が豊原駅をリニューアルした際、光栄にも作詞をお願いされました。駅から約1キロのところに住み、米の栽培と黒毛和牛の飼育を行っています。これが初めての作詞経験でした。周囲の山々や川、遊ぶ子供たち、田園風景などからインスピレーションを得ました。この曲が次の世代に受け継がれていくことを願っています

 

 

多朗:もう一人のスペシャルゲストは、那須町の音楽文化が不毛だった頃から36年間、合唱団を率いてきた青木澄子さんです。

 

 

青木さん:現在、私は4つの合唱団を指導していますが、今回、40人近くのメンバーが参加し、昨年末から何度かリハーサルを行ってまいりました。記念すべきコンサートに参加できたことを光栄に思います。

 

 

多朗:『SHOGUN』で“すごい人”と褒めていただけて、それはそれでうれしい。自分の作った音楽、先程の方々が演奏した音楽が世界に拡散されるのは非常に嬉しいことです。

一方、『豊原駅の歌』は、地元の子ども達に愛情をもって接している地元の方が付けた詩に曲を付けて いろんな方に聴いていただき、今回、青木澄子さんたちに歌っていただいて発表する。この形が自分の思っている音楽の一番大事な形、ありがたい形だと思いました。合唱の方々もノーギャラで歌いたいから歌う、伝えたいから伝える。この形にすごく感激しています。

 

 

 

優しい空気が会場を包み、ほほ笑みが溢れる中、演奏がはじまった。

 

「豊原駅の歌」――創造と愛に満ちた心からピュアで温かい曲だった。冬の那須の夜に、穏やかな陽がさし、かわいい、健気な一輪の花が咲いた。

 

 

 

多朗:以上で公演は終わりとなります。皆様、本当にありがとうございました。
最後にもう一度、出演者の皆様に拍手を。本当にありがとうございます。

 

 

東京公演につづく・・・。

 

 

 

 

 

 

【出演者】

石田多朗:ピアノ・シンセサイザー

篳篥(&和琴):中村仁美

楽琵琶:中村かほる

笙:中村華子

龍笛:伊﨑善之

バイオリン:田中李々

ヴィオラ:七澤達哉

チェロ:成田七海

合唱:堀内陽子 / 清水和美 / 青木澄子 / 西野智子 / 横井久子 / 住田ふじえ / 佐藤令子 / 藤田ひろ子 / 藤田敬子 / 平山勤子 / 平山陽子 / 佐藤美代子 / 平野佳代子 / 斉藤康子 / 鐘ヶ江惇 / 尾形隆喜 / 難波陽平 / 大塚美保子 / 古江郁子 / 高橋友貴 / 村上清子 / 常盤由美子 / 井上和子 / 高久アヤ子 / 渡辺英子 / 伊藤武 / 伊藤宜子 / 菅野久美 / 高松サヨ子 / 中村洋子 / 薄井幸子 / 井岡純子 / 西野勇 / 磯由紀子 / 吉田明子 / 塚原武典 / 塚原恵子 / 花山直 / 佐藤菜々子 / 玉田多佳子 / 稲村有子

 

 

 

 

Written by Atsuko Aoyagi / ao.Inc.

 

 

 

 

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