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【gagaku譚10:雅楽作曲家・Taroとして②】

2024.10.27
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陵王乱序
 
 

前回、

【「Silence」での雅楽と西洋音楽の融合。そして、翌年、ハリウッド製作・戦国スペクタクル時代劇「SHOGUN」でのダイナミックなエピック音楽と雅楽との融合。二つの融合がさらに重なり、新たな作品である現代雅楽『陵王乱序 | Ranjo』誕生へとつながったといっても過言ではないだろう。】と、お伝えした。

多朗さんと雅楽との様々な形での「重なり」が蓄積して生み出された、新曲『陵王乱序 | Ranjo』について深掘りしていきたい。

 

 

 

新曲「陵王乱序 | Ranjo」 3分24秒

作曲:石田多朗

レーベル:Drifter

配信開始日:2024/11/1(金)

各種配信サービス:https://artists.landr.com/055855754134

 

古典雅楽「陵王乱序」を雅楽楽器にストリングス、シンセサイザー、ピアノを合わせる斬新な楽器編成でアレンジ。雅楽の(自然界の音に近い響きと言われている)ピッチ430Hzに西洋楽器(通常クラシックのピッチは440Hz)を合わせ、重ねたことで幽玄、荘厳かつダイナミック、ドラマティックな曲となった。

 

 

 

◆原曲「陵王乱序」とは

古典雅楽「陵王乱序」は、雅楽の中でも外来音楽の唐楽の舞楽(※1)「陵王」(全演奏約40分)の一部。北斉の国の蘭陵王長恭という人が,その美貌を隠すため仮面をつけて戦いにのぞんだという故事に由来して作られたといわれている。「陵王乱序」は、最も長尺の部分で約11分。舞人(まいにん)が舞台に登るときの舞「出手(でるて)」の部分だ。

鼓・太鼓・鉦鼓(打楽器)の延々と続くビート、全体に漂う雅楽特有のゆったりと揺れるグルーブ、唐突に切り込む龍笛の音がエコーの様に重なり、荘厳かつ、幻想的で幽玄な世界を創っている。

 

 

 

 

◆新曲「陵王乱序 | Ranjo」― 二つの挑戦 ―

 

石田多朗

 

 

【Challenge1】:雅楽に洋楽器、ストリングスをぶつけた

 原曲「陵王乱序」は、打楽器だけの演奏から入り、舞いが始まり、舞に合わせて複数の龍笛が響きだす。その4拍あとに二つ目の龍笛グループが演奏に参加、さらに4拍遅れて第三の龍笛グループが加わっていくという、所謂、カノン形式だ。古典雅楽の中で唯一の「乱序」になる。

多朗さんは、太鼓と笛が追うように重なる響きに戦場へ向かう「進軍」の光景を感じた。そこにストリングスを加えることで「人の感情」を表現できるのではないかと考え、バイオリン、チェロ、ビオラを導入。奏者にも雅楽とぶつかり合うような、闘うような感覚で弾いてもらった。すると、雅楽の霧、風のような幽玄な響きにストリングスが輪郭を与え、映画音楽のようなドラマティックなサウンドが創出した。

 

 

【Challenge2】:ストリングスを雅楽のピッチ430Hzに合わせた

洋楽、現代の音楽のピッチは440Hzです。雅楽は430Hzと大きく異なる。

これまでも雅楽と洋楽、クラシックの協演はあったが、「洋楽に雅楽が合わせる」が一般的。同曲はストリングス奏者が430Hzに合わたのだ。すると、洋楽器は、雅楽楽器と近い生き物のような響きを帯び、響きに淡い残想を残していく。今までにない感覚を西洋楽器に覚えるだろう。

他にも、実は原曲にはない、「篳篥」「笙」も加えて全体に神々しい光を纏わせ、さらに、ピアノ、シンセサイザーで現代的、無機的なエッセンスもミックス。

原曲の尊い世界価値を保ちながらも、現代だからこそ、多朗さんだからこそ創れた曲となった。

 

 

 

 

◆テーマ〝発動、発現〟 ―サウンドトラック、ゲーム音楽としての可能性を開く―

 

 

 

「陵王乱序」の【進軍、進む】というイメージに、多朗さんは「雅楽の新時代の始まり」を重ねた。

 

雅楽、日本の伝統音楽は、後継者不足、資金難など多くの課題に直面している。多朗さんは、千年以上の歴史を誇る雅楽をはじめ日本の伝統音楽を未来に残すためには、雅楽を映画やドラマ、ゲームなどの映像のサウンドトラックに使い、自然と現代人の耳に残る、雅楽に興味を持つきっかけを作りたいと常々考えていた。

前回も述べたように、2023年に、雅楽とクラシックの融合をテーマにした「Silence」プロジェクトを始動。雅楽の430Hzに西洋楽器が合わせる実験的作品を創作した。そして、2024年、ハリウッド製作の戦国スペクタクル・ドラマ「SHOGUN」でのアッティカス・ロスら米作曲家陣の巨大なスケールを感じさせるエピックと雅楽のコラボレーション。

この二つの大きな経験からピッチ430Hzの力、現代の音楽とのレイヤー的融合で増幅し合い生まれる音の威力に確信を持ち、新作雅楽の創作に臨んだ。

 

何百回と雅楽団体「伶楽舎」演奏の「陵王乱序」を聴き、曲の解釈に数カ月を費やして作曲。しかし、納得いかず、一度白紙に戻してさらに1カ月。収録、アレンジにさらに2カ月以上。膨大な時間と労力、奏者の協力のもと完成した曲は、どこか異界の感じを漂いつつ、人間のドラマを感じるサウンドとなった。

「ベクトルを誰にも向けない霧のような、空間に立ち込めるような響きを放つ雅楽に、ストリングスを入れたことでベクトルが人の心に向かった」と多朗さん。

「陵王乱序 | Ranjo」は雅楽のサウンドトラックとしての可能性を拓いた作品となった。そして、これは第一弾。今後、さらに新曲、アルバムを制作し、2025年1月12日に那須野が原ハーモニーホール、3月9日に早稲田スコットホールでコンサートも予定している(https://drftr.co.jp/20242025concert/)。

 

そう、「陵王乱序 | Ranjo」は始まりの曲なのだ。

 

 

 

 

◆「陵王乱序 | Ranjo ドキュメントムービー」

 

10月9日、制作風景を描くムービーが一般公開となった。まずは、限定公開映像をみてほしい。

 

 

 

参加アーティスト・スタッフ

石田多朗(作曲・ピアノ)

中村仁美(篳篥)

中村かほる(楽琵琶)

中村華子(笙)

伊﨑善之(龍笛)

田中李々(ヴァイオリン)

七澤達哉(ヴィオラ)

成田七海(チェロ)

 

若尾一輝(映像監督・撮影)

 

 

 

 

◆多朗さんより

 

「『陵王乱序 | Ranjo』は、雅楽を未来につなぐ活動の始まりを切る曲です。クラシックと雅楽が演奏することは現代音楽のジャンルではいくつか例はあります。それをサントラといった一般の方が聴く機会を多く作ることを目的に曲を作りたかったのです。これまでに前例のない挑戦だと思います。

この曲を使った映画、ドラマを観たり、ゲームで遊んだりする中でサントラが気になって、いつの間にか龍笛を吹く子どもが出てくる。そんな現象を起こせたらうれしいです。

今作でまた新たな雅楽の不思議な魅力にたくさん得て、ワクワクしています。この興奮、感動をより多くの方の感じていただけるような曲をこれからもつくっていきたいと思います。先ずは、『陵王乱序 | Ranjo』で新しい雅楽の一面を感じていただけたら幸いです」

 

 

日比和子

 

 

 

11月1日がたのしみですね。

 

次回、今や世界を魅了する音を創る雅楽楽器、430Hzの不思議について探っていきたい。

 

 

 

Written by Atsuko Aoyagi / ao.Inc.

 

 

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