〝楽器それぞれの響きがまるで自然現象のように重なり合っていくという感じなのかもしれない。 音楽に詳しい方ではないが、素直な感想は言える。人知を超えた調べに感じるし、「音楽を聴く」というより「空間にいる」という感覚を覚える〟
〝黛氏の執筆文は、さらにこう語っている。約千年前、今に残る雅楽を創った日本人は、「合わない音を合わないまま衝突させ」、「避けようと思えばいくらでも避けられる筈の不協和音を、意識的にそのまま残しておいた」。なぜか―「微妙な音程のズレから生じる味わいを楽しむことのできる高度に研ぎ澄まされた美感を持っていたからではなかろうか」〟(gagagku譚2より)
〝無二の音、エネルギーを放出していながら、その響きは自然を犯さず、共存する。人が創る音でありながら、風の音、葉の音、瀑声、川のせせらぎ、鳥の声などの自然界の音のような、環境音のような。自然現象のひとつの音なのではないかとさえ感じる時もある〟(gagagku譚3より)
〝音楽は元来、神仏を讃歎し、自然を敬い、この世に生きる衆生の供養讃歎のために奏でられてきた。歌われてきた。日本人の源流をたどると、「音楽」は人間が創り、演奏することに意義があったのだ〟(gagagku譚9より)
これまでgagagku譚に綴らせていただいたことも含め、雅楽を探り、その存在を感じれば感じるほど、
多朗さんと私は、
「雅楽は自然、神仏を崇拝し、讃歎し、ついには憧れから一体化すべく生まれた音楽なのではないか」
という考えが強くなっている。
雅楽を織り成す楽器たちについてもまた然り。
今回は、雅楽楽器の中でも
自らも奏者である著名な教授が「雅楽の特徴として、まず雅楽の特殊性の大部分は笙(しょう)にある」と語っていた「笙」を探っていきたい。
◆「笙」は天の音
雅楽の演奏に使われる楽器は、大きく管楽器(吹物)、絃楽器(弾物)、打楽器(打物)に分類され、種目や楽曲によって用いられる楽器が異なる。
笙は、篳篥、横笛(おうてき)と共に管楽器に属し、
「笙は天の音、篳篥は人の声、また地の声、笛は天と人を行き来する龍の声」など、と称される。
私たちは天の音を聴いたことはないはずなのに、笙の音を、特に生で聴いた経験のある方はその表現に納得するだろう。
天の音。
神仏の世界の音。
仏教経典には、「伎楽・妓楽・妙なる音・妙音・美音」などの文字が現れる。「音楽」は如来、仏、世尊への讃歎供養を根源としていることが説かれている。
さらに、声楽や鐘、鐃、太鼓・鼓、琴、琵琶、笛など具体的な楽器についても諸経典によって種類は異なるが、明記されている。
笙も、法華経に記されているそうだ。
そして、笙に深い関係があると言われている「簫(しょう)」(中国の縦吹きノンリードの管楽器。指孔付きの1本の竹管からなる洞簫と,長さの異なる竹管を横に並べ,木の枠にはめこんだパンパイプの一種としての排簫の二つのタイプがある)は、妙音を奏でる楽器の一つとして諸経典に見出せる。
また、仏教経典に見る「音楽」には鳥の声や風・水など自然現象の自鳴、それら自然現象と楽器の共鳴も含まれている。
多朗さんと私の考察、「雅楽は〝自然、神仏を崇拝し、讃歎し、ついには憧れから一体化すべく生まれた音楽〟なのではないか」に合致するではないか。
◆神、鳳凰を映した美音、造形美
笙の形状も自然、神仏崇拝を物語っている。
全長約50cm。直径約7cm。
周囲3~4cm程度の竹管17本を、頭(かしら)と呼ばれる檜や桜で作った椀型に水牛の角で作った蓋をしたものに、差し込んだ構造になっている。17本の内15本の竹管の先端(頭に隠れる部分)についた響銅(さはり)製の簧(した:リード)が、息を吹き入れたり吸ったりすることで振動して音が鳴る仕組みだ。ハーモニカやパイプオルガン、アコーディオン、オルガンなどの世界のフリーリードの祖とされている。
形状の話に戻ろう。竹管の長さは全て同じではなく、その形状は鳳凰の両翼に喩えられる。
「鳳笙(ほうしょう)」とも呼ばれるほど、音色と共にそのフォルムもまた芸術品のように美しい。
鳳凰とは。
中国神話に登場する瑞鳥(ずいちょう:吉兆とされる鳥)、神の鳥だ。
鳳凰は3000年以上前の殷の時代の甲骨文に登場し、風の神風をつかさどる神でもあった。
その風は自然の音の創作者。ゆえに、音楽の鳥でもあるという。
さらに、紀元前200年代に編纂されたという天地万物古今の事を備えた書物「呂氏春秋(りょししゅんじゅう)」に「中国音楽の起源は、鳳凰の鳴く声である」とも書かれているそうだ。
音楽の神を象った笙。その音は天の声。
形が先か、音が先か。
なぜ、いかにして生まれたのか。
笙が神を象り、天から降り注ぐ声といわれる所以をさらに納得させられる伝説がある。
「古代中国の伝説の中に登場する〝母性の象徴で万物の母親、人類の生みの母、いのちの女神〟女媧(じょか)が笙を生み出した」と言われているというのだ。
笙はモノを生み出すゆえに「笙」という。
「笙は生なり」(※『释名』(しゃくみょう)・後漢末の劉熙が著した辞典より)
その姿、音色、そして、
笙の演奏形式にも、「生」をみることができる。
次回、さらに「笙」の「生」たる由来、所以について迫ってみたい。
※参考文献『雅楽だより』(雅楽協議会発行)、『雅楽の心性・精神性と理想的音空間』(東儀道子著)など。
Written by Atsuko Aoyagi / ao.Inc.
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