こんにちは、作曲家の石田多朗です。
今回は、私のラジオの第2回目としてお話しした内容をブログでもご紹介したいと思います。
テーマは「雅楽のテンポが上がっていく理由」についてです。
雅楽には、演奏が進むにつれてだんだんテンポが速くなっていく曲がよくあります。
最初はゆったりと始まり、最後に向かって加速していくという特徴です。
実はこの「曲の中でテンポが上がっていく」という構造は、世界的に見てもかなり珍しいもので、他の多くの伝統音楽にはあまり見られません。
このテンポの変化は、単なる知識としても面白いのですが、作曲家として自分の音楽に取り入れたいと思ったときには、ただ知っているだけでは使うことができません。
私が大切にしているのは、「自分ごとにする」ということです。
例えば、私は今45歳ですが、子どもの頃に感じていた「一年間の長さ」と、今感じている一年間の長さはまったく違います。子どもの頃の一年間はとても長く感じましたが、今はあっという間に過ぎてしまう感覚があります。
また、楽しいことをしている一時間と、退屈な一時間では、同じ時間でも感じ方がまるで違います。
このように、時間の流れというのは主観的なものですよね。
私は、雅楽はこの“主観的な時間の感覚”をそのまま音楽のフォームに落とし込んでいると感じています。
時間は一定のものではなく、流れうるもの。
そして、それが加速していくという雅楽の構造には、とても日本的な感覚が現れていると思うのです。
「諸行無常」という言葉があります。
平家物語の「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり」に象徴されるように、
日本の文化には「すべてのものは移り変わり、やがて消えていく」という美学が根付いています。
石や山のように一見不変に見えるものも、やがて朽ちる。
そうした考え方の中で、終わりに向かって加速していく雅楽という音楽の構造は、
まさに「無常」や「終末の美しさ」を音で体現しているように思えるのです。
雅楽が持つ「だんだんと速くなる」という構造には、日本人の時間観や美意識が濃く刻まれています。
それは単なる音楽的特徴ではなく、哲学や世界の捉え方そのものを映し出しているとも言えるでしょう。
このような観点から、私は雅楽をとても魅力的な音楽だと思っています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
これからもラジオやブログを通して、音楽や哲学、
雅楽の魅力をゆっくりと語っていきたいと思っていますので、またぜひお付き合いください。