こんにちは、作曲家の石田多朗です。2025年春、NHK宇都宮放送局の夕方ニュース「とちぎ630」がリニューアルされるにあたり、番組の新しいテーマ音楽を私が担当しました。
栃木県在住のアーティスト・シシヤマザキさんがオープニング映像を手がけ、地元同士のコラボレーションで豊かな自然や人の温かみなど栃木県の魅力を表現できたと思います。
今回は、この番組音楽に込めた想いや制作アプローチについてお話したいと思います。
夕方のニュース番組に雅楽の音色を取り入れるという、前代未聞の試みにチャレンジしました。1300年の歴史を持つ雅楽と西洋クラシック音楽を融合させたこのテーマ曲は、
ニュース番組音楽として世界初の試みだったようです。伝統の響きと現代的なサウンドが交差する、唯一無二でありながらも親しみやすい音楽体験を目指しています。
実際、篳篥(ひちりき)や笙(しょう)、楽琵琶などの雅楽器にバイオリンやチェロ、ピアノといった西洋楽器も加えて録音し、新鮮な響きを追求しました。
なぜニュース番組に雅楽を?と思われるかもしれません。背景には、栃木県にゆかりの深い歴史文化があります。県内には天皇陛下の御用邸や日光東照宮といった伝統的な場所があり、
雅楽が少しでも日常で身近に感じられる音楽を届けたいという想いが、この企画の出発点でした。
私自身も那須在住で、『SHOGUN』の劇伴に雅楽を取り入れた経験があり、「この地域ならではの個性と誇りを音楽に込めたい」という気持ちも背景にあります。
毎日流れる番組音楽を通して、雅楽の音が現代の生活の中に自然に溶け込んでいくことができたらと願っています。

笙(しょう)や楽琵琶(がくびわ)など雅楽器とバイオリンを用いたリハーサル風景
「とちぎ630」の気象情報コーナーの音楽も担当しました。
こちらは、栃木の自然を音で表現することをテーマに作曲しています。
シンプルなピアノのフレーズを何度も繰り返す曲ですが、
単なる機械的な繰り返しにならないよう、一音一音に微妙な変化と動きをつけました。
たとえば雨が降るとき、一見すると同じ雨粒が次々と落ちてくるように見えても、実際には一つひとつの雫の動きは異なります。
木の葉が風に揺れる様子や、川のせせらぎも、同じ動きの繰り返しのようでいて、すべてが少しずつ違っています。
そうした自然の繊細で多様なリズムを、音楽で表現しようと試みました。
楽譜の上では同じフレーズが繰り返されていますが、演奏では毎回わずかなニュアンスの違いを加えています。
それによって、自然が見せる無数の微細な変化を音で感じ取れるよう工夫しました。
ニュースの気象情報は、一見すると「お天気の情報」を伝える時間ですが、同時に空や天気、雨や雪といった自然そのものに向き合う時間でもあります。
その発想から、データや数値を強調する音楽ではなく、「自然」にフォーカスした音を目指しました。
毎日流れる天気予報の時間が、ただ天気を知るためのものではなく、日々自然を感じるためのひとときになっていったら素敵だと思っています。
その積み重ねが、新たな価値につながっていく──そんな願いも、この小さなピアノ曲に込めています。
この音楽が、日々の空や風、雨の表情に、ふと意識を向けるきっかけになれば幸いです。
地域の魅力と想いを音に乗せた「とちぎ630」の番組音楽。
毎日夕方に自分の音楽が流れることを誇りに感じつつ、
視聴者の皆さんが少しでも穏やかな気持ちでニュースや天気に向き合える手助けになれば嬉しいです。