

2019年12月から2020年1月にかけて、名古屋城 本丸御殿を舞台に開催された夜間イベント
名古屋城夜会 にて、音楽監督・作曲・音楽制作を担当しました。
依頼は、空間演出を手がける映像プロダクションからのものです(制作:LIL株式会社)。
最初の相談で共有されていた課題は明確でした。
名古屋城という巨大な歴史空間を、映像だけでなく音で一体化させたい。
ただし「いわゆる和風」に寄せるのではなく、どこかマッドで、少し壊れた感触を持たせたい。
江戸期の日本美術に見られる、狂気と知性が同居する感覚を、現代の夜の体験として立ち上げたい——。同時に、来場者が気負わず楽しめるエンターテインメント性も失えない。
さらに、城門から本丸御殿へ至る長い導線と、メイン会場とで緊張度の異なる音のレイヤーを設計する必要がありました。


そこで、音楽とSEを分けずにひとつの世界として設計する方針を取りました。
導線は静謐で不思議な気配が漂う音像に抑え、会場へ足を踏み入れた瞬間に空気が切り替わる。
映像が投影されると、白と黒のコントラストの中に“幽玄”が立ち上がる——その段差のつくり方を、音で担保しました。
象徴的な音色として選んだのが、北海道のアイヌに伝わる弦楽器トンコリです。
日本にありながら日常的には聴かれない響きが、城全体に異世界性をもたらし、映像の狂騒と知性を静かに支えました。

結果として、来場者からは「きれいで不思議な弦の音が鳴り響いていた」といった声が多く寄せられ、
城に入る前の道から体験が始まっていることがはっきりと伝わりました。
歴史的な場所でありながら、最先端で、どこか説明しきれない感覚が残る——そのバランスを、音が保ち続けた事例です。
本件は、楽曲を当て込む仕事ではなく、巨大空間の体験を音で編成するプロジェクトでした。
Drifterは、歴史性とエンターテインメント性、音楽とSE、導線と主舞台を分断せず、一体として考える音楽設計を行います。
大規模な空間や文化的文脈を持つ場所でこそ、企画の初期段階から相談いただける仕事の一例です。