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【gagaku譚16:栃木公演 リポート ①】

2025.01.30
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2025.1.12 栃木公演 @那須野が原ハーモニーホール

 

冬の夜。

冷えて一層澄んだ空気が、期待と未知の体験への好奇心に逸るホールを包む

 

2025年1月12日、17時。栃木県大田原市、那須野が原ハーモニーホールで、作曲家石田多朗氏によるコンサートが開催された。

 

 

 

 

【石田多朗】

ボストン生まれ。 幼少期をサンフランシスコで過ごす。22歳から音楽を学び始め、翌年東京藝術大学音楽学部に合格。 東京藝術大学大学院を卒業後、2014年雅楽作曲に挑戦し、オリジナル楽曲「骨歌」が坂本龍一氏に評価される。 重度の精神疾患を経て栃木県那須に移住後、一時は音楽の道を諦めかけるも、音楽哲学を根本から再構築。 2022年、アカデミー音楽賞受賞作曲家でありナイン・インチ・ネイルズのメンバーでもあるアッティカス・ロス、そしてレオポルド・ロス、ニック・チューバの三名から共同制作のオファーを受け、受諾。 これがSHOGUNのサウンドトラックとなる。 SHOGUNの音楽は世界中で評価を受け、エミー賞、グラミー賞、ゴールデングローブ賞など多くの賞を受賞・ノミネートされる。 SHOGUN以降も雅楽と現代音楽、西洋音楽を融合させた作品で国内外から高い評価を受け、文化イベントの音楽監督やプロデュースにも活躍の場を広げている。

 

 

上記は、Instagramなどに最近投稿された石田氏のプロフィールだ。

ホームページなど以前のプロフィールには載っていなかった事実がある。

 

それは、「重度の精神疾患を経て…」だ。

 

この夜の公演は、雅楽本来の魅力を掘り下げ、雅楽と西洋楽器が織り成す新たな世界を示し、さらに、石田さんの再生の記録を刻むものであった。

 

 

 

◆序

 

公演は、

静かに始まった。

 

 

多朗さん(以下、多朗)振り返ると…。

6年前まで東京に住んでいましたが、精神疾患になっていた。その理由があって(妻益子悠紀さんの故郷)那須町に引っ越して自然や、那須町の方の優しさがきっかけとなって心が癒えてきた。

 

「音楽を辞めようか」と思っていたが、「いやもう一回やり直そう」と。

 

そして、もともと10年前に初めて触れた雅楽を、もう一度やり始めたんです。

外国の方にも知って、聴いてほしくInstagramに英語で、「#gagaku」と入れて投稿していたら、嘘みたいな話ですが、その3カ月後にSHOGUNのオファーがあった。そのような経緯でSHOGUNのチームに入ってアレンジした音楽が評価され、世界の方々からコンサートの依頼をいただきました。

「やった!」と思った。けれど、「最初は地元で、お世話になった方々の前で演奏したい」と、今日のコンサートを企画させていただきました。

 

 

那須地域の森のように、温かい拍手が石田さんを包んだ。

 

 

 

 

◆「旅」「Cado」

 

1:旅 - (Piano Solo)

アルバム 『NIGHT FLOWER ORIGINAL SOUND TRACK』より

https://artists.landr.com/692531442659

 

2:Cado -  (Piano Solo)

https://drftr.co.jp/?works=cado

 

 

開始2曲。多朗さん一人でのピアノ演奏ではじまった。

 

 

「旅」は、約4年前、あるプラネタリウム番組のBGMとして制作した中の1曲。10曲中4曲つくった頃、新聞で地元の小学生とその父が川で命を落としてしまった事故を知る。5曲目以降は全て、名前も知らないその少年に捧げて作った曲で、「旅」は晴れた日の朝に今でも毎朝、演奏し、その少年に送っているという。

 

多朗:名前も知らない子だけれど「演奏して」と言われている気がするので最初にやってみます。

 

 

「Cado」は、空気清浄機で知られる「Cado」のブランドムービーの音楽で「洗練された都会的なデザイン」と「大自然の中での深呼吸」の相反するイメージを一曲で表現した。

多朗さんは森に面した自身のスタジオの窓から録った音を流し、ピアノでソ、ラ、シ、ドと音を重ねた。

 

多朗:これだけでもすごく良い。自然音も良い、空気清浄機の機会音も良い。

重要なのは音そのものではなく、音を聞いたときに聴いた人の心の中で起こることや、音と音の間でふわっと想いが出て来ることとかを大事にしたい。そういうコンセプトで作った音楽です。

ちなみに、雅楽にもそういう所があると思っています。

メロディーを追うとかあまり考えず、主体を自分に持ち、海とか星空を見るような感じで聴いていただければ嬉しいです。

 

 

2曲それぞれへの思いを多朗さんは、丁寧に語り、慈しむように鍵盤をたどった。

「旅」は少年の苦しみと自分の苦しみの時を重ねた鎮魂の曲であり、再生の曲でもあるように思えた。そして、「Cado」からは、空気清浄機と空気の関係、ひそかな仕事、人との見えない交流を伝える多朗さんの眼差しを知った。

 

 

音に命を聴く人なのだ。

 

 

 

◆「盤渉調調子」「骨歌」

 

 

 

3:盤渉調調子(ばんしきちょうのちょうし)-  (Piano, Sho, Vn, Vla, Vc)

 

4:骨歌(こつか)-  (Piano, Gakubiwa, Vn, Vla, Vc)

https://youtu.be/YhUw-YvZBnk?si=TUjQVOmpuIA73cRk

 

 

 

雅楽、クラシックの奏者の皆さんが入場し、

雅楽楽器とストリングス、430Hzの世界に入っていく。

 

多朗: 雅楽はピッチを430Hzという一般の音(440Hz)よりも低い音です。ストリングスの3人には雅楽楽器の方に合わせて430Hzで演奏をしてもらっています。かなり特殊な演奏です。

 

 

「盤渉調調子」の演奏へ。

雅楽楽器は笙のみで古典雅楽のまま演奏され、クラシックの楽器とピアノが入っていく。

ピアノ、洋楽器の悲しい、切ない旋律を奏で、笙の音は背景、環境音、変わりなく変化する自然と化す。万物を平等に、どんな状況でも永遠に見守るナニカの存在に気付く。

 

 

 

続く「骨歌」は、多朗さんにとって初めての雅楽の作曲となった。

2014年、東京藝術大学大学美術館・陳列館にて開催された「別品の祈り 法隆寺金堂壁画展」のための音楽だ。

同大教授からの依頼。雅楽の「が」の字も知らなかった状態から1カ月半猛勉強し、2カ月後に納品したそうだ。不安で仕方なかったが内覧会に来た坂本龍一氏からの一言が救いとなり、さらに今、大きな意味を持つことになった。

(※【gagaku譚8:雅楽との出会い-「骨歌」誕生-】https://drftr.co.jp/gagakutan8%ef%bc%9ameet-gagaku/

 

 

坂本龍一氏

「とてもいいね。雅楽、続けてみた方がいいよ」

 

 

演奏へ。

 

当時と同じ楽琵琶奏者、中村かほるさんが、森閑とした佇まいで撥をおろす。

ストリングスの不穏な揺らぎに、楽琵琶の音が果てしない天上から糸を下ろし、糸を辿らせ天つ水を不規則に落とす。笙の音が光りの波紋を広げる。その真ん中に佇む己の命の記憶をピアノが断片的に映す。裸の私を見つめる御仏。いつも、いつまでも、最期まで。

 

演奏時、私も「骨歌」の中にいた。

 

 

個人的な感想を入れさせていただきました。

 

 

公演は、いよいよ、新曲「陵王乱序」の演奏に・・・。

 

次回、ご報告させていただきます。

楽しみにお待ちいただき、ぜひ、東京公演(https://drftr.co.jp/20242025concert/)で共に

多朗さんの音楽、「雅楽×ストリングス」をご体感いただけますと幸いです。

 

 

 

 

 

 

 

 

【出演者】

石田多朗:ピアノ・シンセサイザー

篳篥:中村仁美

楽琵琶:中村かほる

笙:中村華子

龍笛:伊﨑善之

バイオリン:田中李々

ヴィオラ:七澤達哉

チェロ:成田七海

 

 

 

 

 

Written by Atsuko Aoyagi / ao.Inc.

 

 

 

 

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