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【gagaku譚9:雅楽作曲家・Taroとして①】

2024.10.20
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◆2014-2022年 AI急速発達の中で雅楽がもたらしたコト

 

前回、多朗さんが初めて作曲した雅楽と正対して作った曲「骨歌」(2014年)骨歌について触れた。

そこから、「雅楽」という存在が多朗さんの創作活動に浸透していく。

 

 

【2015年】

愛媛県今治市大三島にある伊東豊雄建築ミュージアムの企画で、音と映像のコンサート「世界」を開催。(悪天候の為、会場は大三島公民館大ホールに変更)

出演者は多朗さん、映像作家・勅使河原一雅氏、映像エンジニア・岸本智也氏の三人。雅楽に用いられる銅鑼の反響音に映像が呼応して、響きがスクリーンから滲み出るような演出を施した。

その時、多朗さんは「少しでも大三島特有の環境を会場の中に繋げたい」と会場の大きな窓を解き放った。偶然か、意図的か否か、雅楽の演奏において、自然、その地との共鳴は草創期や平安時代の頃には欠かせない要素だった(※自然との共鳴。演奏空間の重要性については後日改めてお話させていただきます)。

 

 

【2016年】

伊東豊雄建築ミュージアム主催で「岩田健 母と子のミュージアム」にてコンサート「雅楽空間」の2回目の公演を開催(※参照:https://www.tima-imabari.jp/blog/1224/)。

雅楽団体「伶楽舎」の中村仁美氏(篳篥)、日比和子氏(笙奏)、伊崎義之氏(竜笛)によって多朗さん作曲の『永遠の風景』が演奏された。同コンサートのための新曲で、死後の世界の永遠の平穏と現世には戻れない寂しさをコンセプトにつくったという。

※尚、ミュージアム館内の音楽、展示映像の音楽を2014~19年まで多朗さんが担当。

 

岩田健母と子のミュージアム

 

 

 

【2017年】

都内から、家族で那須町に移住。

開発の進む都内の騒音から解き放たれ、自然の奏でる音に包まれ、創作にも変化があったのではないだろうか。事実、多朗さんは「東京にいたら生きていなかったかもしれない」と言っている。

共に、多朗さんと「雅楽」の共鳴はさらに広がっていった。

 

 

【2018年】

雅楽で使用される楽琵琶による独奏曲『あそび』-東京都庭園美術館「ブラジル先住民の椅子 野生動物と想像力」展のための-を作曲。

 

 

 

【2020年】

オオルタイチ × mama!milk × 石田多朗 × 京都市交響楽団の演奏会を開催。(@京都市京セラ美術館『ナイト・ウィズ・アート2020』)

古典雅楽曲『平調陪臚』をベースに、多朗さんが作曲、オオルタイチさんが作詞した雅楽曲『けもの』をオーケストラのような編成でアレンジし、発表した。

 

京セラ

 

 

 

【2021年】

オオルタイチ氏と雅楽プロジェクト『どんぶらこ』を始動。1stアルバム『けもの』発売(アナログレコード特装盤として発表)。

 

 

 

【2022年】

海上や河畔など様々な場所で演奏した楽曲を収録した「どんぶらこ」のアルバム『裸1 <Nakid1>』をテープの形で発表。

・7月 小豆島福田にて雅楽で奉納演奏を行う。

・11―12月 栃木県那須塩原市黒磯の美容室『salonChiune』にて『雅楽展』開催。

・12月 栃木県那須町・那須みふじ幼稚園にて、「どんぶらこ」雅楽コンサートを開催。

 

 どんぶらこ雅楽展 雅楽公演 | どんぶらこ@那須みふじ幼稚園

 

 

上記の通り、

2021年から翌年にかけてオオルタイチ氏とのプロジェクトで雅楽の新曲がいくつも誕生し、演奏活動も多彩な場所で展開した。

精力的な活動の裏に、下記のような思いがあった。

 

 

AIの台頭。

音楽も作れる。

音楽とはなんだろう。

「AIができないことをやればいい」

… 一体、どうやって。どういうことなのか。

 

「わたしにとって、この不安からのよみがえりのきっかけは雅楽でした」

「音楽には人や文化や共同意識が培っていかないと意味がない側面が大いにあるということがわかってきました」

 

 

そう、音楽は元来、神仏を讃歎し、自然を敬い、この世に生きる衆生の供養讃歎のために奏でられてきた。歌われてきた。日本人の源流をたどると、「音楽」は人間が創り、演奏することに意義があったのだ。

 

 

 

 

◆2023年 silence始動 新たな領域へ

 

 

 

2023年、多朗さんは、雅楽と西洋音楽などを融合した新しいプロジェクト「Silence」を始動した。

 

テーマは「非音楽」(多朗さんの造語で「音楽」の外にある音楽を意味する)。

会場は、星空が残る那須町。楽琵琶(中村かほる氏)、笙(中村華子氏)、ヴァイオリン(田中李々氏)、チェロ(成田七海氏)の共鳴に、さらに、多朗さんが電子音を重ねたものだ。

私も体感したが、通常は440Hzのピッチで演奏を行う西洋楽器が、雅楽のピッチ430Hzに合わせたことで聴いたことのないような響きを見せた。とても不思議な感覚だった。

楽器それぞれの威力がダイレクトに肌に、脳に、心に響いてきた。音は鳴るのに、静けさもちゃんとそこにあった。

 

「Silence」は楽器の個性、力を感じさせてくれた。楽器そのものが生きているようだった。

楽器と奏者の呼吸が音となり、那須の夜と戯れ、吸い込まれていった。

帰り道、「私も創作のけものになりたい」と強く思ったことは、今でも強く胸に余韻を残している。

 

 

 

 

 

 

「Silence」での雅楽と西洋音楽の融合。そして、翌年、ハリウッド製作・戦国スペクタクル時代劇「SHOGUN」でのダイナミックなエピック音楽と雅楽との融合。

二つの融合がさらに重なり、新たな作品である現代雅楽『陵王乱序 | Ranjo』誕生へとつながったといっても過言ではないだろう。

 

 

次回、【現代雅楽作曲家・Taroとして②】。2024年11月1日配信スタートの新曲について探っていきたい。

 

陵王乱序

 

 

Written by Atsuko Aoyagi / ao.Inc.

 

 

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